薄暗い部屋で、一人の女が犯されていた。
全身を白濁の液に汚され、息も絶え絶えの状態である。
「あ……ん、ひは……ぁ、ぁあぁぁ…………っ」
満足に声も出せないのか、悲鳴なのか嬌声なのかあいまいな声を上げてされるがままになっている。
「おーい、そろそろ時間だぜ」
薄暗い部屋に、一人の男……女を犯している連中の仲間が声をかけた。
「おいおい、こっちはまだ途中なんだぜ?」
「知るかよ。取引先のほうが重要だろ」
「くそ……あぁ、勿体ねぇなぁ」
未練たらたらといった様子で女の身体を離し、男たちは部屋を出て行く。
時間だと呼びかけた男だけが残り、襤褸切れのような布で倒れた女の身体をくるんだ。
「さあ、新しい飼い主のところに行こうか。……"鋼の聖女"様」
その呼びかけに応える余力もなく、"鋼の聖女"メリッサはぐったりとしたままで身動きも取れなかった。


「はいよ。これがお約束のブツだ」
布にくるまれたメリッサを引き渡しながら、男がそう告げる。
「ブツ……ねぇ。まあ商品に変わりはないのだろうが」
どこか高級そうな雰囲気と服に身を包んだ商人風の男が、不満げにそう呟く。
「あん? なにか問題でも」
「ああいや、なんでもない。奴隷取引は初めてでね、ちょっと面を食らっただけだ」
愛想笑いを浮かべ、商人が応じる。
「へえ、そうなのかい? ま、またなにか買いたくなったら連絡してくれ。じゃあな」
乗ってきた小さなぼろい馬車を走らせ、メリッサを売った男は立ち去った。
「……まったく、この方をなんだと思ってるんだ……っ」
そう呟いた男の声は怒りに震え、大事そうにメリッサの身体を抱きしめると、こちらも高級な仕立ての馬車に乗り込みその場を去っていく。


「……ここ、は…………?」
メリッサが目を覚ますと、視線の先には木で出来た天井があった。
気だるさを残す身体を起こすと、やわらかいベッドの中で眠っていたことを理解する。
しかし、なぜ?
「お目覚めですか、メリッサ様」
ちょうどそこに、メリッサを買い取った商人がやってきた。
手には水差しと、軽い食事の乗った盆を持っている。
「あなたは……確か、私の…………」
「はい。以前よりわずかばかりですが、ご助力をさせていただいていました。……メリッサ様が悪漢どもに捕らえられたと聞いて、万が一のことを考え手を打っておいたのです」
メリッサを買い取った商人は、"鋼の聖女"の一団を支援する者たちの中の一人だった。
卓に盆をおいて、商人が頭を下げる。
「このたびは……大変苦しい思いをされたと思います。もしなにかありましたら、なんなりとご用命下さい」
「……ありがとうございます。今は……そうね、少し休みたいくらいかしら。ところで、私はどれくらい眠っていましたか?」
「今日で五日目でございます。よほどお疲れだったのでしょうね……後で身辺を守る者を寄越しますので、それまではごゆるりとお休みくださいませ」
メリッサの要望に素直に応え、商人は部屋を後にする。
静かになった部屋の中で一人、メリッサは水を一口口にすると、再び眠りへとついた。
柔らかなベッドで寝るのは、果たして何日ぶりだろうか……。


商人が再びやって来た時、メリッサは完全に目を醒ましていた。
とはいえなにをするでもなく、ベッドの上で呆けていただけなのだが。
「この者が、メ……あなた様を守る者です。見てくれはこの様子ですが、腕も含めて信頼できます。
そういって紹介されたのは、顔の左側に大きな刀傷のある大柄の傭兵だった。
背の高さもあるが、筋肉のつき方も常人のそれと比べるくもない。
目つきは鋭く油断も隙もないが、なるほど言うとおり口の堅さでも信頼出来そうだった。
それでもこちらの名を伏せているのは、最悪の場合を想定して、だろう。
それから一通りのことを説明すると、商人は部屋を後にした。
部屋の中でも外でも、好きなところにおいておけばいい、とは商人ではなく傭兵の言葉だったが。
とりあえずメリッサは外ではなく中にいてもらうことにした。
話し相手になればと思ったのだが、案外と話題が思いつかないものである。
静かな部屋の中で、傭兵は少し離れた位置に立ち、メリッサはベッドに腰を下ろしている。
そこで、ふと思った疑問を口にしてみた。
「……私の名前、聞かないのですか?」
「契約で、聞かないようにと言われている。それに、俺は他人に興味はない。必要であればそれなりに問いかけはするが……今は必要も興味もない」
低い声でそう答え、男は再び沈黙する。
「契約……。どんな内容? 聞いてはまずいかしら」
「……あんたも雇い主という扱いだ、知っておいた方がいいだろう。俺と部下は前からここの商人に雇われているが、今の仕事内容は商店全体と、あんたの保護。それに関することなら、あの商人とあんたの命令はなんでも聞くようにと言われている」
「不満とか、感じないのですか?」
「払いがいい。傭兵は雇い主を吟味するが、ひとまず金の払いがよければそれで十分だ。きな臭いと思えば断ることも出来るが……」
「そうは感じなかった、と」
「そういうことだ。……これを言うと機嫌を損ねるかもしれんが、確かに金額と比べれば仕事の内容は簡単すぎるかもしれない。だがあんたはどうにも只者ではなさそうだしな。あの商人の態度も気になる。……これ以上は詮索でしかないから言わないが、まあ現状では概ね納得している」
「へぇ……」
傭兵と言うと、どうにも気性の荒い連中を想像していたが、この男はそうでもないようだ。
実力の表れだろうか、泰然と構え、恐らくは下らない質問にも律儀に答えてくれている。
とりあえず、悪者ではない。
そう感じたとき、どくんと心臓が跳ね上がる感じがした。
心の奥底から、誰かが語りかけてくる。
求めろ、と。
「……ねえ。さっき私も雇い主だ、って言ってましたよね……?」
「そうだが。代金は商人の方からもらっているから、問題はない」
シーツを握り締め、静かに息を吐く。
「問題……ない、訳でもないと思います。少なくとも、私には……」
自分はなにを言っている?
なにを言うつもりだ?
「うん? なにが言いたい」
やめろ、と頭の中では叫んでいるのに、身体は本能に流されていく。
「私にも……報酬、払わせて……」
ベッドの上から、メリッサは男を招く。
「……野暮なことは言わない方がよさそうだな」
その誘いに、男は剣を外して牝のいるベッドへと向かった……。


「んぷ……っちゅ、はぷ……んふぅ……っ」
根元まで咥え込み、舌を絡めてしゃぶりつく。
男のそれは硬く、太く、逞しかった。
女の――メリッサの中の牝が、熱く激しくそれを求める。
「……っ、そんなに飢えてたのか? お淑やかそうに見えて、なかなか……」
メリッサの頭に手を載せ、男が呟いた。
「んぁ……そ、そんなこと……。あむ、ちゅぷ……じゅる……っ」
一度口を離し拒否しようとするが、説得力はない。
それにそんな下らない問答をしている暇があるなら、一分一秒でも長く男を求めたかった。
(……私は、どうして…………)
脳裏に一瞬、そんな考えが浮かぶ。
が、それはすぐに欲情に押し流されてしまい、頭の中から追い出されてしまった。
今はただ、なにもない、ただの男と女。
「じゅるる……ちぅ、ん……はぁ、んく……んぅ……っぷぁ」
口の端から溢れる汁……唾液なのか、男のモノか、混ざり合ったものか……を音を立てて吸いながら、舌と唇を使い奉仕していく。
「がっついて……そんなに美味いのか、こいつが」
腰を動かし、男が問う。
その顔には嘲りというより、ただこの状況を楽しんでいる、そんな表情が浮かんでいた。
……そう、楽しめばいい。
本能からの囁きに、メリッサは意思を委ねた。
「ん……ふぁい……おいひぃ……んちゅ、ぴちゅ……じゅぷ……」
より卑猥な音を立て、むしゃぶりつく。
大好物に飛びつく、幼子のように。
「こういうのもいいが……やられっぱなしは性じゃないんでね」
不意に男が立ち上がり、メリッサの頭を掴んで腰を前後させる。
「ん、んぶっ、んぅぅ……っ」
喉まで突かれメリッサがくぐもった悲鳴を上げた。
それでも男は気にしない。
なぜならば、そうした事でよりメリッサの唇が咥えつき、舌が絡んできたから。
濡れた布を棒で擦るような音が響く。
「いい具合だな、お嬢さん。……でも、このまま口に出してしまっていいのかい?」
びくりと、口の中で跳ねる。
まだ余裕はあるだろうが、それ故の問いだろう。
「ん…………っ、ふぁ、はぁ……はぁ……」
口から男のモノを引き抜いて、男の顔と、目の前のそれと、何度も視線が往復する。
その視線は熱っぽく、まるで熱病にうなされた患者のよう。
「あ、あ…………っ、こ、ここ……ここに……っ」
上目遣いで男を見上げながら、メリッサが足を開く。
「ここに……入れて…………っ。その、逞しいのをぉ……ここに入れて、かき……混ぜて……っ」
メリッサの秘部はなにもしてないのに、なにもされてないのに、濡れそぼり滴っていた。
ふとももを愛液が伝い、床に落ちて水玉の模様を作っている。
「お望みとあらば、してやるぜ? で、どうされたいんだ?」
ここにきて、男は初めて欲望にまみれた表情をしてみせ、意地悪くメリッサに問いかけた。

「あ、あ……ひ、ぁあぁぁあああぁぁぁぁぁぁっ」
甲高い悲鳴が、部屋中に木霊する。
獣のように両手足をついた姿勢で、メリッサは貫かれていた。
「んぁ、や……激し……すぎ…………って、ん、ふぁあぁぁぁっ」
シーツをぎゅっと握り締め、頭を振り乱して悦楽に耽る。
男はメリッサの腰をしっかりと掴み、力強い動きでメリッサの中をかき混ぜていく。
「く、ぅ……締めついて、絡み付いてくる……。あんた、本当に何者だよ、まったく」
軽口を叩きながらも、腰の動きは止まらない。
むしろ段々と加速していき、メリッサの身体を穿っていく。
「は、ひ、ひゃああぁぁぁぁっ!? あはぁぁぁ、そ、そこぉぉ……っ、ひふ、や、あ、あぁぁぁぁ……っ」
敏感なところを責められたのか、一瞬逃げようとメリッサの腰が引ける。
「っと、逃げるなよ」
しかし男の力は強く、逃れられない。
先程よりも激しい水音を響かせて、牡と牝が交わっていく。
「で、でも……そこ、そこおぉぉ……っ、ひく……ぅ、、あ、だめ、な……のぉ…………っ」
肘をつき、顔をベッドに押し付けながらメリッサが叫ぶが……やはり男は止まらない。
むしろ弱点を知って気を良くしたのか、動きの質に変化を付ける。
「ひぁ……は…………っ!? ひぃぃぃぃぁあぁあぁぁぁぁ……っ」
緩やかな動きになったと思えば、激しく弱いところを攻め立て。
「あ、っき……ひぃぃ……お、奥……とど、いて…………っ」
メリッサの最奥を突き上げ、突き破りそうな勢いで叩き。
「あ、あ、そ、そんな……や、あ…………やだ……もっと、もっとぉぉ…………っ」
抜けそうになるほど腰を引いて、メリッサを焦らす。
その全てにメリッサは敏感な反応を示し、男を楽しませた。
「あ、あ、ああああっ、ひ、ひゃ……、ふぁぁああ……っ、や、あ、あ……っ」
小刻みに激しく、腰を動かす。
敏感なところを責めながら、さらに奥にも届かせて。
あまりの快感に、メリッサはだらしなく口を開き、声とともに唾液を漏らしながら、よがり狂う。
もし仮にここに第三者がいて、今男に犯され快感に溺れるメリッサを見て、誰があの"鋼の聖女"と信じられようか。
だが、男はそれを知らないし、知っている者はここにはいない。
だからこそか、容赦なく腰を振り、メリッサを犯していく。
「ひふっ、ひ……っ、あ、も……ぉ、あああ……っ、い……っちゃ……ぁぁぁ…………っ」
シーツを掻き毟り、顔を押し付け全身を震わせながらメリッサが絶え絶えに呟く。
それに応じるように、締め付けは増し、男のモノを締め上げる。
「ん……俺も、そろそろ…………っ」
「は、ひ…………な、か…………にぃ、出し……って……」
果てそうになる中、そう懇願する。
本来ならば、決して口にしない言葉。
でも今は……牝となった今は違う。
より強い男の遺伝子を、本能で求めている。
「……なら、お言葉に甘えて…………っ」
最後の仕上げと、より一層強く激しく、そして乱暴に腰を振りたてる。
「あ、ああ、あ、あぁぁ……っ」
メリッサには、呆けたような声しか上げられない。
限界まで押し上げられた快感は脳髄を焼き、視界を塗りつぶし、メリッサの意識全てを支配していた。
もう、今は男の動きに翻弄され、快感を刻み込まれるだけ。
「そら……出す、ぞ…………っ!」
男の叫びの直後、熱く滾った奔流がメリッサの中へと流し込まれ、満たしていく。
「ひ…………ぁ、あ、あはあぁぁああぁぁぁぁぁぁ…………っ」
その流れがメリッサの最後の防波堤を突き崩し、身体の奥へ染み込んでいくのを感じながら、メリッサの意識は途切れていった。


「ん……ぅ……?」
次にメリッサが目を覚ましたのは、日も暮れて大分経った頃だった。
部屋には明かりはなく、薄暗い中身体を起こす。
「私……あ、あんな事を……」
意識を失う前のことを思い出す。
一時の気の迷いとはいえあそこまで乱れるとは……。
シーツを握り締め羞恥に顔を赤らめるも、心のどこかでは、あの状況を求めている自分がいた。
違う。
そう言うのは簡単でも、心の中に湧き上がった黒い欲望は、なかなか消え去らない。
むしろ時を置くだけ増殖していくかのよう。
「……落ち着いて、メリッサ。私は……違う、あんな事は望んで……いない」
目を閉じ、深呼吸を繰り返す。
そうしてどれほど経ったか、ようやく心に平静が戻ってきた。
ベッドから立ち上がり、手探りでランプを探し当て、明かりをつける。
暗い部屋の中で揺らめく小さな明かりが、メリッサの心を捉えて放さなかった――。


「移動、ですか?」
翌朝、部屋で朝食を摂りながらメリッサが問う。
「はい。ここでも安心は安心ですが……一日でも早くバンドル様たちと落ち合ったほうがよろしいかと思いまして」
聞けば、バンドルたちはクルルミクを発ちこちらに向かっているという。
買い取ることが決定した時点で早馬で伝えていたらしい。
それにしても迅速な行動だ、と内心感心してしまう。
「そうですか、分かりました。いつ頃こちらを発ちますか?」
ここから離れると聞かされただけで、なぜだかメリッサの心は落ち着かなかった。
なにが原因か、それは本人にも漠然としていて分からない。
「出来るだけ早い方がよろしいかと。もしメリッサ様さえよければ、本日の午後にでも……」
商人というのは先手先手で動かなければならない。
バンドルたちへの連絡もそうだが、恐らく今もこうやって話している間に、準備は着々と進んでいるに違いない。
午後というのは、恐らく最速で、かつ余裕を持った時間なのだろう。
「あなたのその行動力には、驚かされてばかりです。きっと、私たちもそうやって何度も助けられてきたのでしょうね。本当にありがとうございます」
自分のことを思っての行動だろう。
それは素直に嬉しいし、今までもそうだったことを考えると、自然とそういう言葉が出てきた。
「もったいないお言葉です。しかし、こうする事が出来るのも、以前助けていただいたからですよ。私が出来ることはこの程度ですが、全力を持ってお支えさせてください」


その日の午後。
メリッサは荷物にまぎれるようにして馬車の中にいた。
人が乗る馬車ではなく、荷物を運ぶ為の、いわゆる荷馬車だ。
馬車は大きく、幌も付いている為かなりの積載量がある。
それゆえに、荷を少しずらすことで人一人隠れるくらいのスペースは十分に確保出来た。
合流場所まではおおよそ三日。
その分の食料は積まれているし、排泄に関しては―その処分はあまり考えたくないのだが―隠れているスペースの片隅に、それ用の壷が置かれていた。
出来るだけ使わないようにしよう、と小さな決意をしていたりするのだが、それはさておき。
馬車の中は明かり取り用の小さな窓しかない為、若干薄暗い。
まあ荷馬車であるわけだし、窓を大きくして疑われても意味がないので致し方ないのだが。
そこから外を覗き見ると、馬車の周りには十人程度の傭兵がいた。
恐らく、昨日のあの男の部下だろう。
全員が馬に乗り、時折雑談しながらも油断なく周囲を見回している。
一応、馬車の荷はクルルミクへの輸出品ということになっており、建前上とはいえそれなりの価値がある品物が多数積まれていた。
馬車は一台ではなく、メリッサの隠れている馬車を含めて三台。
まさか馬車一台に十人の傭兵を雇うというのは不自然であり、かといって減らしてなにかあっては意味がない。
傭兵と荷の数を調整して、怪しまれない程度の誤魔化しはしてあるということだ。
(……それにしても、暇ね……)
ぼんやりと座ったまま、そんなことを思う。
かつてはそう思うことすらなかったのに、今ではどうしたことだろうか。
時間があれば神に祈り、聖典に目を通していたというのに。
確かに今手元に聖典はないが、それでもせめて祈りだけでも……と思うこともない。
やはり自分は変わってしまったのだろうか。
(それはそうよね……)
思い出したくもない、あの悪夢のような時間。
あれを境に自分は変わってしまった。
汚れてしまったからではない。
もっと根本的ななにかが変わってしまったのだ。
それがなにか、は本人ですら分かってないのだが。
再び馬車の外に目をやる。
自分を―彼らにそのつもりがなくても結果として―護衛しているのは、いずれも若い男たち。
もっともメリッサより年下の者はいないようで、恐らく同じくらいの年齢か、最長でも三十程度だろう。
戦士としては、もっとも力を発揮出来る年代である。
それと同時に、夜の方も――。
「……私は、なにを考えているの」
脳裏に浮かんだ想像に、飲み込みかけられた意識を呼び戻す。
頭を振って追い出そうとするが、ひびの入ったガラスは割れるしかない。
「……」
傭兵たちはこちらに気づいていない。
メリッサが乗ってることなど、教えてもらってないからだろう。
万が一のことを考え、そこまでして自分を守ってくれるあの商人には感謝をしきれないが、それ以上に、奥底から湧き上がってくる渇望は次第に耐え難い欲求となって意識を侵食していく。
「はぁ……っ」
熱のこもった溜息を吐く。
頬が熱いのは、血の巡りがよくなってきたからだろうか。
頭がぼんやりとする。
視線がかすみ、薄暗い馬車の中がよく、見えない。
「は……ぁ…………」
メリッサの手は自然と下腹部へと伸び、熱を持った身体を鎮めようとする。
しかしそれは――己の欲求を増大させる為の手段としか、ならなかった。


夜。
傭兵たちは馬車を止めて休息に入る。
長時間馬車の手綱を引いていた御者たちは、なんともいえない声を出してへたれこみ、食事もそこそこに寝入ってしまった。
傭兵たちはというと、少し離れた位置で火をくべて、ささやかな酒宴を始めようかとしている。
もちろん、見張りは立てた上で、程度が過ぎない程度に騒ぐだけ。
だったはず。
「あ、あの…………」
傭兵たちが焚き火を囲むその場から、少し離れた位置で女の声がした。
女はどこか不安げな顔で、傭兵たちを見ている。
着ているのは、質素だが触り心地のよさそうな白いワンピースのみ。
足には簡素なサンダルだけを履いて、一見どうしてこんな格好でここにいるのか……一人を除いて理解しかねた。
その女が誰か理解したただ一人の男は、好色な笑みを浮かべ、だがなにも言わない。
「こんなところに女?」
傭兵の呟きに、女はこくりと頷いて。
「えっと……その、雇い主の方から……その…………」
うまく説明出来ないのか、しどろもどろとした口調でなにかを言いかける。
「雇い主……って、街で別れた商人の? ……なんも聞いてないぞ」
「だ、だから……えっと」
こういう状況に慣れていないのだろう、説明が出来ないのと、怪しまれているという雰囲気で女は焦り、より言葉が出なくなる。
「……そういう事か。おい、皆喜べ。雇い主から最高の差し入れだ。十分に楽しめってさ」
様子を見ていた。ただ一人の例外……宿屋でメリッサを抱いた男が、部下にそう声をかける。
「え、マジで?」
「雇い主は堅物そうだったけどな。結構見た目じゃ分からんもんだねぇ」
たった一言で、傭兵たちは理解したらしい。
目の前の女が、自分たちを慰安してくれるということを。
「……これでいいんだろう?」
はしゃぐ部下よりも先んじて女……メリッサに近づいた男は、そう囁く。
「あ、え…………は、ぃ……」
顔を真っ赤にし、小さな声で呟いて頷くメリッサ。
その様子ににやりと笑い、腕を掴み焚き火の方へと連れて行った。

「あ、ん、ふぁぁぁ……っ」
男の上に跨り、腰を振ってメリッサが嬌声を上げる。
来ていたワンピースは近くの木にかけられ、全身を晒したまま。
「こっちも頼むぜ、お嬢さん」
むわっと臭いのするモノを眼前に突きつけ、別の傭兵が咥えるよう指示する。
もう何日も洗ってないだろうそれは、臭いもきつく垢が溜まっているようにも見えたが。
「あむ……ん、ぷ……ちゅぱ、ちぅ……」
メリッサは異もなく咥え、舌を使い綺麗にしていく。
「へへ……相当なスキモノだな。俺のこれ見て、躊躇わずに食いついたのは初めてだ」
「馬ー鹿。そんなんだから街についてもお前だけ女にありつけねぇんだよ」
下卑た笑い声が上がる。
その様子を視線の端に捉えながらも、メリッサは腰と口の動きを止めない。
「それにしても、すげぇいい女だぜ、こいつぁ。どっかの貴族出身かね」
何気ない傭兵の呟きに、一瞬メリッサの身体が硬直する。
が。
「下らない詮索はやめておけ。俺たちが知らなくてもいいことだ。今があればそれで十分だろう」
あの男だけは、まだメリッサを犯す輪に入らず、念の為周囲の警戒をしていた。
山賊などは出ないだろうが、獣くらいはいるかもしれない。
遊びに耽って、野犬に襲われ全滅など笑いもの以外の何者でもないのだから。
「そりゃ、そうですけど……」
メリッサの手に己のを握らせていた男が、そう反論する。
「……なら、俺がお前の過去を洗いざらい聞きだそうか? それが愉快というなら、今からしてやるが」
何気なく、そして目にも見えない速度で短剣を抜きながら男が告げる。
声は低く落ち着いていたが、迫力は満ちていた。
「す、すみません……」
「分かればいい。……今のうちに楽しんでおけ」
後半の言葉はどちらに向けられたものか。
傭兵たちは自分らに向けられた言葉だと思い、余計なことを考えず、ただメリッサの身体を貪ることに集中した。
「……ありがとう……」
ポツリと、とても小さい声で呟かれた言葉は、誰の耳にも入らなかった。

「あ、ああ……………………っ」
太い幹を抱き締め、メリッサが苦しげな声を上げる。
「へ、へ……こっちも十分にやられてるくせに、そんなに苦しむなよ……っ」
メリッサの身体を貫いている傭兵がいう。
しかし男のモノはメリッサの秘部ではなく、もう一つの窄まりへと捻じ込まれていた。
排泄が主な目的のそこは、普通なら男のモノを受け入れる場所ではない。
中にはそういう趣味の者もいるが、今メリッサを犯している傭兵もまた、そういう趣味なのだろう。
「締め付けはともかく、すっぽり簡単に収まったってことは、こっちでも散々やってるんだろう?」
「あ、ひは……、そう、だけ……っど……」
傭兵の身体が動き、出入りする度にメリッサの身体が跳ねる。
たとえ傭兵の言うとおりでも、なかなか慣れないものでもある。
それでも。
「そう言いながらも、こっちはさらに濡れてるぜ? ほら、いいんだろ」
手を伸ばし傭兵が秘部に触れると、メリッサの腰が跳ねた。
「いい反応だ。楽しませてくれるよな」
「あ、はぁ……っ、い、ふぅ……、ん、く、ひぅぅ…………っ」
排泄時に似た快感に襲われ、背筋を震わせる。
嫌悪感はあれども、感じる快感には抗えない。
「あ、あ……ん、あん、ふぁ……っ、ひ、あ……はぅ……」
苦しげな声の中に、艶っぽい音が混じり始めた。
「ほぉら、やっぱり。こっちも好きなんだろ?」
「ち、が……ぅ、けど…………ぉ、でも、感じ……ちゃ……ぅぅ」
目を閉じ、動きに合わせて腰を振りながらそう答える。
「違う、ねぇ。さっきからよ、ケツの穴の癖に締め付けたり緩めたり……すげぇんだけどな」
傭兵の呟きに顔を赤くしながら、それでもメリッサは首を横に振るう。
「あ、か……っは、んぁ……はふぅぅ…………っ」
それでも口からは嬌声が漏れ、愛液が滴り、快感に身も心も打ち震える。
尻を突き出し、男のモノを無意識に求めるその様は、もはや人の形をした獣に近い。
その姿を見ている他の傭兵たちも、メリッサの痴態を食い入るように見ている。
「すげぇな……おい」
「とんだ淫乱だ……」
その声はメリッサの身体に刷り込まれ、より深く全てを汚し貶めていく。
「あ、ああ……そう、私はぁ……お尻で感じる、変態なんですぅ……っ」
「自分でとうとう認めやがったぜ。淫乱なお嬢さんには、たぁっぷりかけてやるよっ」
「い、っき、ひはぁぁあぁぁぁぁあぁっ」
激しく、肉がぶつかる音を響かせて、男が腰を打ち付ける。
その勢いのままモノを引き抜くと、溜まり溜まった精液が、メリッサの白い肌を汚していく。
「あ、あ……っめ、だめ…………っ」
直後、ぷしゃぁぁぁ……っと勢いのいい音がする。
「はははっ! こいつ、ケツ犯されて漏らしてんぜ」
「結構出てるなぁ……溜まってたのかぁ?」
傭兵たちの前、尻を突き出した姿勢で失禁をしてしまい、それを揶揄される。
しかし火照った身体と精神には、その声すらもが快感になった。
びくびくと震えながら、漏らしながら、メリッサは快感の泥沼へと落ちていく……。

「ん、んっぷ、あむ……ちゅぷ、じゅぷ……んふ……ぅ、んむ……」
メリッサが、四つんばいで男のモノを咥えている。
腰は別の男が抱え込み、挿入を繰り返していた。
他の者たちは離れた位置に座り、その様子を見ている。
夜半に始まった饗宴は、空が白み始めている今まで続いていた。
それまでいったい何度、メリッサはその身体に男たちの精を受けたのか……。
恐らく、あの暗い玄室で受けた仕打ちと同等か、もしくはそれを越す回数か。
違うのは、あの時は本人の意思ではなく、今は本人の意思でそうしているということ。
「んちゅ、はぷ……ん、はむ……んく、んん…………っ」
丁寧に舌で舐め、唇で扱きながらも、メリッサは疲れた様子を見せていない。
その身体は全身精液にまみれ、汚れてない箇所は皆無だというのに。
それでもまだ、男のモノを求めていた。
「……こいつ、本当にすげぇな。まだやる気だよ……」
自分のを硬くさせてしゃぶらせながら、他人事のように呟く傭兵。
精液でべとべとになったメリッサの頭を何気なしに撫でつつ、腰からせり上がってくる快感に背中を震わす。
「く……出る……っ」
メリッサを犯していた傭兵が小さく叫び、何度目か分からない射精をその中で済ます。
傭兵が腰を引くと、どろりとした精液が溢れ出てきた。
「俺も……」
しゃぶらせていた傭兵も、続けて果てる。
「ん、んぅ……っ、んく、こく……っ」
口の中に出された濃い精液を、メリッサは苦もなく飲み干し、口を離した。
「よーし、お前ら。そろそろ終了だ」
男が、そういって手を叩く。
「あと一刻ほどで出発になるだろうから、少しでも休んでおけ」
「えー、マジですか」
「くぁぁ……やりすぎたぁ」
男の指示に、傭兵たちは手早く身支度を済ませて、方々に散っていく。
「……ん」
のろのろと立ち上がったメリッサは、散っていく傭兵たちの背中をぼんやりと見送ってから、着ていたワンピースを手に取り歩き出した。
よほど疲れているのか、膝が震え、よろよろとしていて危なっかしい。
「大丈夫か、お嬢さん」
そのメリッサの脇にやってきて、男が問う。
「だい……じょうぶ…………」
ひどく疲れた声でそう返し、メリッサは歩を進める。
全身にかけられた精液がねっとりと肌を滑り、秘部や後ろの窄まりからは出された精液が溢れていた。
それでも、その顔はどこかすっきりしているようにも見える。
「ま……あと二日ある。せいぜい死なない程度に楽しんでくれ」
男の言葉に一瞬顔を赤くさせ……それから黙って頷き、メリッサは近くにある沢へと身を清めに向かった。

……それから二日間、メリッサは夜になると自ら進んで傭兵たちの慰み者となった。


前の街から三日の行程を経て、馬車と傭兵たちは目的地へと到着する。
馬車は荷を降ろすため、商店の支店へと向かい、傭兵たちはそれを送り届けると報酬を受け取り酒場へと向かう。
「達者でな、お嬢さん」
あの男が馬車の壁越しにメリッサに告げて立ち去った。
(……そういえば、名前も聞いてなかったわね……)
今更ながらそう思うが、お互い行きずりの関係でいい……そう思う。
とりあえず身支度を済ませ――といってもほとんど荷物もなく、まさに服装を正すだけくらいなのだが、それを済ませるとメリッサは馬車の底に作られた隠し戸から外へと出た。
食料の残りやあの壷に関しては、事情を知っている者たちだけで処理してくれるという話なので、後は大丈夫だろう。
こそこそと周囲を伺いながら、メリッサは何気ない振りをして馬車の下から出て、商店を後にする。
向かうは、事前に教えられた合流場所。
商店から徒歩でも数分程度のそこには、すでにバンドルと幾人かの部下たちが待っていた。
「大丈夫でしたか、メリッサ様」
部下の数が少ないのは……恐らく、自分を旗印にするに値しないと判断した者がいたからだろうか。
「心配をかけましたね、バンドル。そして皆も……」
そこまで口にして、はて謝ればいいのか、助かった事に感謝すればいいのか、判断に迷った。
謝るのはなんだか違う気がする。
心配をかけた事を謝るのはともかく、今のメリッサには皆に言えない……言えるはずのない負い目があるから。
感謝をするのは、謝るよりはやりやすい。
しかしこれにも負い目が付きまとい、なぜだか口にするのが憚れた。
もっとも言えない理由は自分だけしか知らないし、この場だけを誤魔化すだけなら謝罪にしろ感謝にしろ、口にするのは可能だ。
それはメリッサも分かっている。
分かっているからこそ言えない。
「……どうかされましたか、メリッサ様」
バンドルの声に、はっと我に戻る。
「い、いえ、なんでもありません。その……これからまた移動だと思うと、私はともかく皆に悪いな、と思いまして」
咄嗟に、考えていなかったことを口にする。
それは些細な嘘だったが……メリッサが「謝る」にしろ「感謝する」にしろ、それをする最後の機会は失われてしまった。
恐らく、永遠に。
「皆の事を考えてくれるのはありがたいことです。しかし、今はあなた自身の事を考えてください。……それでは、出発しましょう」
「……ええ」
晴れない表情で頷き、メリッサは馬車の中へと戻っていく。
どこへ行くかはまだ決まっていない。
それは一同の行く末であるが、メリッサには己の行き着く果てすら見えなかった。
今まで背負ってきた業がこういう形になってしまうなど、考えてもいなかったから。


2years after...

テラスに置かれた安楽椅子に、一人の女性が座っていた。
腰まで届く長い金髪を揺らし、その手には、よく似た顔の双子の赤子が抱かれていた。
昼寝の時間なのか、すやすやと眠る顔は天使そのもの。
対する赤子を抱く母親は、その顔を見つめつつ柔和な笑みを浮かべていた。
自身の持つ愛情全てを、二人に注いでいるように。
「お嬢様……失礼します」
午後の穏やかなその時間に、一人の老人がやってきた。
その顔には、複雑そうな表情が浮かんでいる。
「あら、どうしたの。もしかして、冬超えの為の備蓄が足りないのかしら」
「いえ。その……お嬢様にお客人です」
たったそれだけで、誰が来たのか分かった。
「……帰って、貰ってください」
「は? よ、よろしいのですか? お嬢様も会いたがっていた筈だと……」
「もう一度しか言いません。帰って貰ってください。そして、二度と来ないで欲しい……いえ、二度と来ないでくれと言っていたと伝えてください」
どこかきつい言葉に、老人は言葉を失う。
「それと、勘違いです、と。あなたの探している人物ではないとも言い聞かせてください」
全てを断絶するかのような言葉に、しばし無言の時間が流れる。
「……御意に」
ようやくそれだけ告げると、老人は辛そうな表情を浮かべ一礼してその場を辞した。
「分かってる。分かってるけど……私には、彼女に会う資格は無いの……!」
老人の姿が見えなくなると、女性は赤子を抱きしめ涙を流す。
「あ? だー……まんま、だー」
「だー、だー。まんまー」
いつの間に起きていたのか、双子の赤子は泣いている母親の頬に手を伸ばし、濡れている頬を不思議そうに触っていた。
「ご、ごめんなさい。マリア、ルイズ。こんな……弱い母で、ごめんなさい……っ」
かつて味わった地獄の日々。
それは望むにしろ望まないにしろ、彼女の身体に植えつけられていた。
今こそこうして母親としているものの、その身体は定期的に男を求めてしまう。
子を産めば落ち着く、そう信じていたが、まったく効果はなかった。
むしろ子育てで忙しくなった反動か、以前よりも狂おしく、深く男に飢えていた。
こうしている今でさえ、気を抜けば身体の奥から熱が生まれそうなほどに……。

(ふざけないで! ここまで来て帰れと!? 人違いだなどと、そんな話が聞けるとでも!!)
遠くから、自分に会いに来たという人物の叫び声が聞こえる。
その声は、記憶にあるものとまったく変わっていなかった。
「あぁ……あぁ……っ!」
許されるならば、今すぐ駆けて行き無事を知らせたい。
抱きしめてもいい。
それでも、そう願っても会えない……会えるはずがない。
(出てきなさい、メリッサーッ!!!)
自分を呼ぶ声。
その声に、なぜかあの浚われてしまった日の事を思い出す。
いや、あの時も彼女は、フィオーネはああやって叫んでいたはずだ。
それが分かるだけ、こうして関係を断つというのがメリッサにとってもどれだけ辛い事なのか。
「許して、ごめんなさい、フィオーネ……っ」
「だー?」
「うー?」
腕の中で無邪気に微笑む双子たち。
そのぬくもりを感じながら、メリッサは自分の置かれた状況にただ絶望するしかなかった……。

クルルミク領内に、かつて"鋼の聖女"と呼ばれた女性の従者と後援者たちが孤児院を兼ねた施療院を建設したのは、"鋼の聖女"の行方が分からなくなったワイズマン騒動の終焉から二年後だった。
その施療院は、主にグラッセンとの戦役で住む場所や家族を失った者たちを受け入れる場であり、歴史に名を残す事はなかったが長く市井の人々に愛され、頼られていたと近隣地域に言い伝えられていた。
またその頃、仲のよい双子の姉妹と、それを温かく見守る女性の姿がよく見受けられていたが、その彼女の名を知る者はほとんどおらず、ただ"母"とだけ呼ばれていたという――。




聞き終える